普段目にする風景の中に存在して、気に留めなければそのままだけれど、調べてみれば価値が分かってくるものがある。実は世界はすばらしいもので溢れているが、気づくものは少ない。何気ないものでも、発見した時の喜びはなんとも言えないものになることだろう。
仏華を活ける『お華たてさん』
お寺やお仏壇の仏さまに供えるお花がある。その呼び名を正式には仏華(ぶっか)というが、特にこの時期、豊前地域で行われる御正忌報恩講の際には、手の込んだ仏華が本堂の内陣に供えられる。今回はその仏華にまつわるお話をピックアップしてみることにした。
いけばなを想像してほしい。普段私たちが見るいけばなの形は美しさが際立っているが、一方で仏華は美しさの中にも力強さがあるように感じる。
それは見た目からも明らかで、なんと仕上がった時の全長は1メートル50センチを超え、重さも相当なものになるのが仏華だ。
器も花の重さに耐えられるように、重くできており、仕上がったものは器の重さ+花の重さ+水の重さとなり、仏さまの前まで持っていくのにも一苦労で、下手したらぎっくりやるんじゃないかというくらいだ。
そんな、仏華を立てるのは専門家の方々。
毎年、自坊である賢明寺では御正忌報恩講に合わせて花を活けていただくが、その際に活躍されるのが、「お華たてさん」と呼ばれる方たちだ。
仕事場は本堂
たいてい豊前地域では御正忌報恩講の準備は当番地区のご門徒総出で準備にあたる。そのお寺が最もあわただしい最中、同時進行でお華たてさんたちも本堂で仕事を進めていく。
この日は3人のお華たてさんが来ておられたので、間近で見学をさせてもらった。
さっそく仕事場である本堂にお伺いしたところ、まず目に飛び込んできたのは、多くの道具だった。
普通、花をいけるというとハサミを使うことは知っているが、仏華ではこんなに多くの道具を使うということに驚いた。率直な感想はまるで大工さんだと思った。使いこなすのも大変そうだ。
華瓶(かひん)と呼ばれる花をいけていく道具の中に田んぼから持ってきたという藁(わら)が入っている。ここに花や木を刺していく。
「今は機械で刈り取るから、くちゃくちゃにしないで少し残しておいてと言います。田んぼに拾いにいって持って帰って、家で干すから、家じゅうが藁で汚くなる(笑)干したり入れたり、干したり入れたりするのが大変ね。」と、お華立てさんの一人である山口さん。
最近ではプラスチック製のストローのような代わりになるものも出てきているようだが、量が多いので、たくさん作れる藁が最適なのだそうだ。
材料は自分で育て、自分で調達

花をいける山口さん。
お話を伺っていて大変だと感じたのが、見えないところの苦労だ。
お花を手に入れようとすると、私たちは花屋で購入することを想像するが、この仏華の材料になる木々は普通の花屋にはないのだそう。
だったらどうするかというと、自給自足で必要なものをそろえるのだ。
「仏華に使っているものの中で売ってるものは少ないですね。自分の里にある山に行ってとってきます。松は兄が山に1000本植えてくれてるので。」とスケールの大きな話をしてくださった。
また、ワイルドさを垣間見る次のような話も。「猟期に入るときはラジオもって、(撃たれないように)赤い服を着て入ります。」うーん、命がけとは恐れいりました。
実は、今回の仏華で使われている植物もほとんど自己調達。「ヒノキは山、ネコヤナギや、イブキ、マサキ、ツゲは家に植えています。母の代から残してくれてるんです。」というように、かなりの種類が使われるが、
こういった木々が選ばれるのにはちゃんとした理由がある。
それは、御正忌報恩講が長い期間つとめられる法要だからだ。
昔はどこのお寺でも一週間つとめられていた御正忌報恩講。
つまりその法要期間中、「もつ」ものでないとだめなのだ。
「その間、水も差されないし、水が少なくなっても、一週間あんまり見栄えがわるくならない木を昔からやっているんです。」と山口さんは語ってくれた。
実は電動ドリルも使う、荒仕事

なんと電動ドリルで穴を開けて、木を接いでいくという技法も。
最初は松だけだったところに、色んな植物が活けられていく。
華道、いけばなというとおしとやかなイメージがあるが、「仏華を立てるのは荒仕事。」と山口さん。針金を力を入れて木に巻いたり、松は松ヤニが出るから、手が真っ黒になるそうだ。
「松ヤニはガスコンロを磨く泡の洗剤で手の汚れを落としたりする。手が痛むけどね。」と大変さも教えてくれた。
しかし大変だけではなく、山口さんはこうも答えてくれた。「あのね、いけている時はとっても幸せなのよ。このお御堂の中で、なんにも世間のことを考えない。ただ、お花を活けるだけ。それが至福の時よ。また、そのご縁でご法座が聞ける。門徒じゃなくてもご縁にあわせていただく。それがいい。」素人から見ると大変な世界だけれど、喜びがあるから続けられる。そんなことを感じた。
お華たてさんたちのお仕事のように、いろいろなことが日々この豊前で行われていることを多くの人たちは知らない。なにもないのではなく、見えないだけ。もっとゆったり、じっくりと探してみると、宝物はすぐそこにあるのかもれない。
ここからは最後に入りきれなかったインタビューをお送りします。
山口さんインタビュー
山口信子さん(79歳)
いけばなをしていて、よかったと思うところは?
野にある花が、これちょっと一輪さすのにいいかな。とか。お花やってたからわかる。孫を散歩に連れて行って、ぺんぺん草とったり、野菊とったり、こんなんでも花にいけられるのちゅうのを採る。なるたけ自分のところで調達して、なければ買う。だから、ぺんぺん草でも使うわけ。ドクダミ草でもね。花展でつくしを活けたことがある。町のおばあちゃんたちが「ここつくし入っとるよ!」と、相当たのしんでたよって教えてもらいました。
技術の継承については?
一年に一回じゃ覚えられない。何十年もしてやっと。私たちも手取り足取り、私たちの時代は。もう、盗み見て覚えるみたいな。お花を活けながら話を聞いて、「あ、そうするんだ」とかね。今のように、あーじゃないよこーじゃないよとは教えてくれなかった。もう、もの言うのも怖いような、大先生ばっかりやったから。
それでも受け継いでいって欲しいですね。だけど、大変だろうなとは思うけど。
豊前の魅力は?
田舎田舎しているところが好き。空気の匂いが違う。人情かな。
隣との付き合いがいい。こっちも隣が気になるし。
車が昨日と同じとこにとまっていたら、気になってどうかあるんじゃないって訪ねてくれる。いいとこ、悪いことあるでしょうけど、干渉しすぎるとか。でも、子どもにも隣の人には挨拶するんよって育ててきました。
みなさん、お忙しい中、ありがとうございました!そして、これからもよろしくお願いいたします。


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