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自分の本質を追求する。若きアーティスト加藤魁人さんインタビュー

出会いと別れの季節。またそれは、人生選択の岐路でもある。
自身の進路に悩み、こうだと決めたはずの選択に不安になることもあるだろう。
自分の思ったことを貫き通すのはとても勇気がいることなのかもしれない。

今回は今まさに自らの手で人生を切り開いていこうとしている若手のアーティストにスポットを当てた。
これから、もしくは今現在、自分の思いに向き合っている人にこそ読んでいただきたいと思う。

トライアルステイが行われている「山内のいえ」へ

3月某日。
冷たい風がふき、ここ数日の温暖な気温がうそのように、再び冬の気配があたりを包む。
霧雨が降るなか車を走らせ、豊前の山手にある地区、「山内」(やまうち)に到着したのは夕闇せまる時間帯だった。

集落の中に一軒、暖かな光がもれる建物があった。
その建物の名前を「山内のいえ」という。
海と山を有する豊前市のちょうど中間に位置する山内地区。
そこにある古民家がリノベーションによって新しい施設として生まれ変わったのだ。

利用法は大きく二つ。移住を目的とした人を対象として、地域の文化や風土、歴史に触れてみたい人が一定の手続きをとれば借りることができる「お試し居住」が一つと、
ワークショップや寄り合いの場として使える「一時利用」の利用法がある。

現在、トライアルワーキングステイという「お仕事プラスお試し居住」ができる制度を利用して2名の大学生が滞在しているのだが、彼らに話を聞こうというのが今回の目的なのだ。
特に今回の記事では大学生の一人をピックアップして話を聞いてみたいと思う。

建物の前に車を停めて、玄関の引き戸を開け「こんばんは」と声を掛けると、若い男性が迎えてくれた。

ヒゲ姿に、丸メガネ、チャイナ服風のトップスという個性的なファッションで出迎えてくれたのは、利用者の大学生のうちの一人、加藤魁人(かとう かいと)さんだ。

明日には「山内のいえ」でのトライアルステイを終えるという、その前夜。
そんな時にお話を聞きにいったそもそものきっかけは、さかのぼること数日前のこと。
同じ施設で、地域について考えよう!という勉強会が開催されており、ぼくを含めた豊前の地域に関わる人たちに交じって、「山内のいえ」を利用している大学生も参加してくれた。
そこで、初めて加藤さんと顔を合わせた。

話を聞くと、工業大学の学生でありながら、自身でも服をデザイン、制作し小倉で個展を開いたことがあるとのこと。
しかも今回のステイで、「山内のいえ」をアトリエとして利用し、すでに数着の服を豊前で完成させたという。
そんな彼に興味をもったのがきっかけで、もっと詳しく話を聞いてみたいと思ったのだった。

 

さて、トライアルステイ最後の夜に戻る。
土間にはロケットストーブ。黒く長い煙突が天井近くの壁を抜けて外に煙を吐き出している。めらめらと燃える火のぬくもりが、来客をもてなしてくれているようだ。
おもむろに「ロケットストーブなんて触ったことなかったでしょう?」と尋ねると、「ええ、初めてです」と加藤さん。といいながら、慣れた手つきで薪をくべる。
その自然な感じが7日間の生活の充実ぶりを物語っていた。


靴を脱ぎ、居間に通してもらう。農村部の民家に多い二間続きの間取りで、間はふすまで仕切られ、奥が仏間になっている。
「もうすぐ、コーヒーがはいりますので。」と、アイランド型のキッチンがある土間から顔を出す加藤さん。その姿がここに住んでずいぶん長いんじゃないかと勘違いしそうなぐらい、しっくりきている。
奥の部屋にふと目をやると、床の間の上に数着の服がハンガーに掛けられ吊るされていた。


存在感を放つ黒い服たち。後で伺うと、これらの服が今回豊前で制作された服だということだった。

加藤さんの制作した服

ちょっとここで、加藤さんの制作した服をみてみよう。

机の上に並べられたたくさんの服。どれも個性的だが、袖を通すと、着る相手のことを考えて作ったことが分かる。とても着心地がいいのだ。
それもそのはず、「自分を改革する第一歩にぼくの服を選んでくれるのがすごくうれしくて、改革の拠点になるような服をと思って作っています。着れない服作っちゃっても人変えられないんで、とがりすぎたデザインの着れない服にはしていません。」と加藤さん。
個展会では100着用意したが、そのほとんどの服が売れてしまったというのもうなずける話だ。

絵も描くという加藤さんは服にペインティングもする。抽象的なものが多いそうだが、顔が描かれたものもあった。

「お客さんに言われて気づいたのですが、涙のようになっています。」と、よく見ると、確かに泣いているように見える。
顔のペイントをした後に染めをしたところ、意図せずこのような感じになったのだそう。こういう偶然もハンドメイドの面白いところだろう。

一度作ったシルエットは二度と作らないというこだわりも。襟の形や、寸法も全て変えているとのこと。
また、デザインだけでなく、オリジナルの染色を考えたり、燃やした生地を服にしようとして火事になりかけたというやんちゃなエピソードも聞かせてくれた。

サークルで学んだ少数派の可能性

ここからは加藤さんにじっくりインタビューをしていこう。
先ほどのキッチンからコーヒーをお盆に載せて持ってきてくれた加藤さん。カップから湯気と、いい香りがふわっと立ち上る。
畳におかれた座布団の上に腰を落ち着け、コーヒーをいただきながら、話を聞いてみることにした。

 

現在、西日本工業大学のデザイン学部建築学科に在籍する加藤さん。
大学へは、「インテリアやデザインってかっこいいな。という軽い気持ちで入りました」という。

そのせいか、イメージしていた華やかな内容と違うことに戸惑い、少し距離をとることに。そこで、もともとしたいと思っていた、サークル活動に精を出すことになったのだそうだ。
しかし、そこで「月1くらいでトラブルが起こるんですよ。」というほど、様々な人間模様に関わることに。

そんな人間関係を通して学んだのは、「多数派じゃなくて、少数派の方が可能性持っているんじゃないのかな?尖った人が多いんじゃないのかなと。万人受けとか、ミーハーな人たちよりかは、絶対少数派の方が魅力があるんじゃないかな。」ということだったという。

本気を出した課題で…

悩みながらも取り組んできたサークル活動は早めの引退で後輩に引き継いでしまい、建築もやる気になれず、この後どうしようかと悩んでいた加藤さん。

そんな時、目に映ったのが一生懸命に取りくむ同級生たちの姿だった。
「軽い気持ちで大学に入ったので建築には興味がなかったのですが、一生懸命にやっている同級生たちを見て、このままではさすがに失礼だから、一回本気を出そうと思いました。」

そうして、加藤さんが本気を出すと決めた、3年時の1つ目の課題。
ファッションに興味があったので、デザインをメインにした造形的な建築で闘っていこうと決め、2か月間、学校にこもって作業をした。

その結果、課題に対して得た評価は「満票」だった。

一級建築士5人が課題に対して票を入れる。満票はめずらしいことだそうだ。

その結果に加藤さんは、「達成感」と同時に「違和感」を抱く。

満票が取れてしまったことによって、「一生懸命やっているのはみんなと思っていたけど、もしかすると、与えられたものをやっているだけなのかも。」と再び、サークルで感じた人間の多数性や表面性を感じ、自ら少数派になろうと、ひとりで動くと決めたのであった。

最後の課題で

やがて、3年時最後の課題を迎えた加藤さん。
「みんなより、ずば抜けた建築をやってやろうと思っていましたが、ずっと違和感ともやもやが付いて回りました。」
そんな折、担当の先生に「お前やりたいことあるだろ」と、するどく言い当てられる。
友人たちには恥ずかしくて言えなかったが、趣味でファッションのイラストを描いていると、先生には言っていたのだった。

「その先生に『満票を取りに行こうとするな。なんなら賛否両論かゼロ票。尖った方がいいんじゃないか、お前の好きなことをやったほうがいいんじゃないか』って言われて。じゃあ、そうさせていただきますと言いました(笑)」

建築の課題には模型や図面などの必要なものが提示されているそうなのだが、「ぼくは一切模型もせず、図面もせず、全部無視して、自分の持論を展開したんです。」という加藤さん。テーマは『建築は必要ない。重要なのは建築物を使用する人間の本質だ。』というものだった。

「おしゃれな人が使っていたらそうでもない建物でもおしゃれな空間が成立しているんですよね。人間の質とファッション、個性みたいなものが比例していると考え、こういう人が使用すれば、いい建築が、いい空間が成立するんじゃないのかと考えました。」また、「おしゃれな人は考えている人が多いと思います。自分を分かっている人というか。どんどん、一歩ずつ踏み出して、色んな服に挑戦して、自分の可能性を広げている人が多いなと。かっこよさの概念や定義を自分の中に持っているんだと思います。」そんな持論を展開していった。

結果、前回の課題の満票とは打って変わって、獲得票はゼロ。

「友人や一級建築士にケンカ売るようなもんですから、学校辞めちまえというのも言われて、お前何やってんのと引かれるくらいのレベルでしたね。」

良いと言ってくれる人も一部いたそうだが、ほとんど、否定だったという。さぞかし、落ち込んでいるのかと思ったら、
「その否定が嬉しくて。求めていたものだったので。」
と、思わぬリアクションを聞かせてくれた。
「それでも評価されたら、なんなんだってわかんなくなりますからね。」
確かに。覚悟のゼロ票だったのだ。

いよいよ服の制作へ

この最後の課題が去年の9月。
1ヵ月おいて、10月の終わりにミシンを買った、加藤さん。
「この1ヵ月の間に目線が服に変わりました。」

課題がゼロ票だったことで、自分の思いが伝わる方法、見せる方法をもっと考えることになったのが大きな転機になったようだ。
「最後の課題も、みんなからすると、急にどうした!?みたいな感じだったと思います。だから、自分で動こうと思って、ミシンを買いました。」

そして、1ヵ月間、死に物狂いでミシンをやったという加藤さん。
「死に物狂いでやったせいで、モーターが焼き切れてしまって。ミシン屋さんに修理持って行ったところ、怒られてしまいました…。しかも、2回も壊してしまったんです。」

この出来事によって、個展を開こうと思ったという加藤さん。なんと、まだ制作開始1ヵ月目のことだった。
「ミシンのモーターが焼き切れたのがきっかけだったかもしれません。このペースで、やればできるかも。このペースでいけば上達するんじゃないかなと思って。人よりか、何倍もやっているというのに気づいて。10月末にミシンを買って、個展までの制作期間は3カ月でした。」

3か月でおよそ、100着の服を1人で仕上げ、2月5日~11日まで、『弱知』という個展会を小倉の貸しスペースで開いた。
弱さを知ると書いて「じゃくち」その意味はどういうところにあったのか。

「弱知というタイトルを付けた理由は自分の弱さを知るということです。相手に対してじゃなくて、自分に対して、自分を弱知させたいという思いがありました。初めての個展会ですから、最後の課題と同じように、技術とかをボロクソ言われたかったんです。」否定によって自分を成長させる。あえてその場に身を置こうとするのはかなりストイックだが、加藤さんらしい。

「インスタも始めたばかりでしたし、フライヤー1000枚も小倉にばらまきましたが、初回なので売上も1万あればいいかなと。」そう考えていた加藤さん。
ところが、その予想に反してびっくりするくらいのお客さんが入ってきたという。

貸しスペースの方も「今まで1番人が入ってきたイベントだ。」とおっしゃってくださったそうで、来場者の内訳は知り合いが7割と、3割の新規のお客さんもあり、中には「小倉 おしゃれ で検索してたどり着きました。」という人もいたようだ。

また、今回の個展会では大きな収穫もあったようで、「アーティストさんが来てくれて『コラボしたい』『うち来なよ』というのを言ってもらいました。他には絵を描いているんですが、絵の依頼もありました。」という。そんな今後につながる展開もあり、大成功の個展会になったということだった。

しかし、自分自身の当初の結果イメージとは違った加藤さん。「自分を弱知させるはずが、思わず、自分の強さを知り、思い通りにいかず苦しんでいる」という。けれども彼にとってはこの苦しみも自身を成長させるきっかけとなっていくのだろうと感じる。

今後について伺うと、ネット販売やアーティストさんとのコラボ、また卒業と同時に大きな個展会をやれればと考えているそうだ。

そんな今後もますますの活躍が期待される加藤さん、服を通して生き方も伝えていきたいということで、最後に心強いメッセージをくれた。「身長とか関係ないですよ。横幅とか、顔とか関係なくて、おしゃれな人っていうのは、ぼくも身長低いんですけど自分の本質を追求すればおしゃれで成立できる恰好があるんですよね。服が似合わない人はいないと思うんです。だから、似合わないで止めちゃうんじゃなくて、似合う人間になりたいっていう欲望がないと、美学っていうのはずっと見つけられないんです。」

今後もぶぜんらいふ。では彼の動向を追っていきたいので、ぜひ、注目していただきたい。
加藤さんありがとうございました!

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ひでさん
浄土真宗本願寺派のお坊さんで4児の父。お寺と地域の活性を目指して日々奮闘中です。夢は豊前を仏教王国にすること。そのために、お寺を中心としたコミュニティ「お寺まちづくり」を推進中です!
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